はじめに

二胡

日本ではこの十数年の間に、中国民族楽器の代表の一つである「二胡」が急速に普及いたしました。 二胡の音楽は舞台、テレビ、映画、広告等に広範に使用され、また、二胡を学ぶ方も急速に増えております。老若男女にかかわらず、都市から地方まで、「二胡」は日本人の生活の中に深く根ざし、溶け込み、そして二胡音楽の魅力はますます多くの日本人に受け入れられるようになってきました。

このコーナーでは、「二胡」がどんな楽器であるかをご説明するとともに、習得に関わる情報をお知らせいたします。

まず、楽器の種類と呼び方について少々ご説明いたしましょう。
中国の擦弦楽器、「胡琴属」の一つ、または「胡琴」を指す
日本語読み :にこ
中国語読み :Erhu(アルフー)
英語表記 :erhu, chinese fiddle

「二胡」は、日本では「胡弓」(こきゅう)と呼ばれることも多いようですが、実はわが国には「胡弓」という楽器が別に存在いたします。「胡弓」は、弓を回転させずに楽器本体の角度を変えて移弦するなど、「二胡」とは形態も奏法もまるで違う楽器です。日本には文禄年間に伝わり、京阪では三絃、江戸では四絃の胡弓が使われました。三曲合奏(邦楽:箏、三絃、胡弓の合奏、現在は胡弓ではなく尺八の場合が多い)で用いられることが多いようですが、独奏曲もあり、また最近では”風の盆”で人気が高まるなど、その儚げで哀愁をたたえた音色は現代に於いて再び見直され、ポピュラーな存在になりつつあります。

二胡の構造

二胡


■棹(琴桿)
紫檀、紅木、黒檀、花梨木などの堅い木材で作られます。

■胴(琴筒)
二胡の共鳴箱で、たいていは棹と同じ木材を使います。密度の高い、堅い木材のほうが音色がよくなります。六角形あるいは八角形のものが多いですが円形、楕円形などのものもあります。

■皮(琴皮)
材料はニシキヘビの皮です。弦の振動は駒を通り皮に伝わります。皮の品質はとても重要で二胡の命ともいわれます。

■糸巻き(琴軸)
棹や胴と同じ木材で作るのが一般的です。大別すると、木製のタイプと棹に差し込む部分に金属製の部品を使ったタイプの2種類があります。

■駒(琴碼)
色々な木材で作られます。駒の材質も音色を左右するので、二胡に合わせながら駒を選ばれるとよいでしょう。

■千斤(または千金)
紐を使ったタイプ、または金属などを使った固定のタイプがあります。手の大きさにより位置を調節します。

■弦(琴弦)
スチール弦と絹弦の二種類があります。現在では絹弦はほとんど使われていません。二本の弦のうち、細いほうは"外弦"といい、太いほうは"内弦"(里弦)といいます。普通は内弦をd、外弦をaの音に合わせます。

■響き止め(控制綿)
フェルトやゴム製のスポンジを使用するのが一般的です。雑音を取り去るなど、音色を調節します。

■琴托
台座です。これがあることで楽器が安定し、衣服による音の変化を防げます。

弓(琴弓)
竹と馬の尾毛で作られています。竹の右端のネジをまわして、弾きやすいように張力を調整します。

二胡の仲間たち

・京胡   京劇で用います。竹でできており、大きさは二胡よりもとても小さいです。
・高胡  広東音楽で使われます。琴筒を両腿で挟み演奏します。
・中胡  西洋の楽器にたとえればヴィオラ、二胡よりも少し大きく、音は普通、内弦をa、外弦をeに合わせます。
・低胡  中胡より一段と低い音が出る楽器です。
・板胡  椰子の実を半分に割って、その面に蛇皮ではなく板を張った楽器です。
・二泉琴 二泉映月(阿炳作曲)を弾くためにつくられた楽器です。普通は内弦をg、外弦をdに合わせます。
・三胡  竹でできている小さな楽器で、弦は3本です。雲南や昆明あたりで使われ、踊りながら演奏ができます。
・四胡  弦は4本、弓の毛は二股に分かれ、二本の弦を同時に擦り演奏します。北方の「皮影劇」などで使われます。
・静胡  二胡の性能、特徴を保ちながら、音量を極力抑え、周りを気にせず、静かに練習が出来るエレキ静音二胡。

歴史

二胡

原型楽器は、唐代に北方の異民族によって用いられた奚琴という楽器であるとされる。この頃は現在のように演奏するときに楽器を立てず、横に寝かせた状態で棒を用いて弦を擦り、音を出した[1]。宋代に入り演奏時に立てて弾く形式が広まり、この頃には嵆琴と字を変えて呼ばれるようになった。宋代宮廷のある嵆琴奏者が一本の弦で曲を弾いたエピソードが沈括《補筆談・楽律》に見え、この時ある程度の演奏技術が確立していたことが分かる。また同じく沈括《夢渓筆談》の記録より、宋代で既に馬の尻尾が弓に用いられていた様子が伺える[2]。
近代になり劉天華等によって演奏技法が高度化され、それに伴い楽器自体も改良が重ねられた。1920年代、西洋音楽が中国に大量に入り、劉天華をはじめとした音楽家たちは中国の伝統文化と融合させた新しい音楽や奏法を開発した。劉天華は二胡独奏曲「良宵」「光明行」など十曲を作曲し、それまで演劇の伴奏が主体であった二胡に、独立した楽器としての地位を与えたのである[3]。現在普及している形は、1950年代から(文化大革命の停滞期を挟み)1980年代ごろに出来上がったものが基本となっている。

分類

二胡は琴筒の形状、製作地によって大きく3つに分類され、以下の特徴がある[4][5]。
・蘇州二胡:琴筒が表裏とも六角、裏面に透かし彫り。哀愁ある深い音色。
・北京二胡:琴筒の正面が八角形、裏側は円形。一般的には六角のものより音質が硬い。
・上海二胡:琴筒が表裏とも六角、裏面の透かし彫りが蘇州より細かい。みやげ用に大量生産されているものが多く、音色に個性がない。

広義の二胡

広義の「二胡」は以下の楽器も含む。それぞれ奏法や音域、音色、楽器の大きさや形状が異なる。
・京二胡・・・京劇の伴奏楽器として梅蘭芳が採用し、定着。サイズは「京胡」と「二胡」の中間。
・高胡・・・広東音楽(かんとんおんがく)の「高音二胡」の略称。別名「粤胡(えつこ)」(「粤」は広東地方の旧国名)
・中胡・・・「中音二胡」の略称。
・低胡・・・「低音二胡」の略称。音域の高い順に、小低胡(別名「大胡」)、中低胡、大低胡などに細分される。

三胡と四胡

二弦胡琴を「二胡」と呼ぶのに対して、三弦胡琴を三胡、四弦胡琴を四胡と呼ぶ。
三胡はもともとイ族の民族楽器だったが、1970年代以降、改良が加えられ中国の民族音楽の新しい楽器の一つに加えられた。
四胡は、清楽の「大胡琴」として昔の日本にも伝わっていた楽器である。

日本における「二胡」と「胡弓」

日本においてはこの楽器を胡弓と呼ぶ場合があるが、中国の二胡と日本の胡弓には直接のつながりがなく、胡弓は日本の伝統楽器、および伝統的な擦弦楽器群の総称をいう。また、中国には胡弓と呼ばれる楽器はない。
江戸時代にはすでに明清楽(殊に清楽)の流行と共に二胡の原楽器である胡琴が演奏されていたが、きちんと「胡琴」と呼ばれ、胡弓とは区別されていた。しかし明治初期にはヴァイオリンをも胡弓と呼んだ例があり、「胡弓」が広義の意味で擦弦楽器の総称としても使われる一方、明治から昭和前半にかけ本来の胡弓が衰退して知名度が低下した結果、次第に混同されこのような誤用が起こったと考えられる。
またこの誤用が一般的に普及した背景もあってか、中国胡弓と紹介する例も存在する。ただし、この場合前出の「胡琴」や「京胡」などの中国の伝統的な擦弦楽器全般(「胡弓」の用法と同様に)を指す場合もあり、読み手には文脈上の注意が必要になる。
いずれにせよ、混同による問題を避けるためにも、楽器そのものの持つ文化的背景などを尊重するためにも、正確な呼称が用いられることがのぞましいが、楽器そのものの普及とともに、次第に解決されていくと考えられる。

代表な作品

  • 二泉映月
  • 空山鳥語
  • 江河水
  • 賽馬
  • 病中吟
  • 聴松
  • 三門峽暢想曲
  • 良宵
  • 苏南小曲
  • 戰馬奔騰
  • 陝北抒懷
  • 蘭花花敘事曲
  • 秦腔主題隨想曲
  • 燭光遙紅
  • 山村小景
  • 拉駱駝
  • 長相思
  • 江南春色
  • 光明行
  • 寒春風曲
  • 代表な演奏家